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JaSMIn通信特別記事No.52

作成日:2021.04.05

先天代謝異常とてんかん

 

大阪大学大学院医学系研究科小児科学 青天目 信

 

1.はじめに1)

 私たちが日常生活を送る時、脳は膨大な仕事をしています。身体の外の状況を知るために、見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わうといった五感から情報を得ています。身体を動かす時、単に座っているだけの時でさえ、顔や手足の筋肉、腹筋や背筋のような胴体(体幹と呼びます)の筋肉に、脳から指令が出ています。それだけでなく、身体を動かす時には、今、自分の身体がどのような姿勢なのか、どこに力を入れているのかといったことを、脳は常に感じ取り、それをもとに次の動作に進みます。また、私たちはいろいろなことを考えています。これまでのことを思い出し、現在の状況を理解して、次に何をするのか判断し、今これをしようと決断して実行したり、いや待てよと抑制・制御したり、今後の計画を立てたりします。歩けたり自転車に乗れるようになったりする時、あるいはスポーツや楽器の練習をして上手になる時、勉強や読書、時に経験を通じて新しい知識を得る時、こうした学習も脳が行います。人間関係を考えたり、相手の言葉や表情を読み取って、行動を変えたりすることもあるでしょう。

 こうした複雑なことをするためには、まず脳がきちんとした形に作られることが必要です。そして、脳の中で神経細胞が、信号を送る相手と正確に結びつき、適切な栄養を受け取りながら、信号を伝えるための複雑な仕組みを維持し、成長・発達・学習に伴い、さらに神経回路を組み上げていくことが必要です。こうしたことは、生まれる前も生まれた後も、生涯ずっと続きます。神経細胞が信号を送る時には、神経細胞は安静状態から興奮状態に変わりますが、それもきちんと制御する必要があります。脳の中では神経細胞以外に、神経を支えるグリア細胞という細胞もいます。脳が仕事をするためには、神経細胞やグリア細胞の中で、非常に複雑なたくさんの化学反応が、間違いなく進んでいく必要があります。先天代謝異常の中には、こうした脳が作られる時、神経回路を形成する時、神経細胞が栄養を受け取り利用する時に、必要となる化学反応が、うまくいかなくなる疾患が多く含まれています。このため、先天代謝異常では、神経症状を示すことがとても多くなります。こうした神経症状には、発達の遅れ、てんかん、麻痺や不随意運動と呼ばれるさまざまな運動の異常、自閉症、ADHD(注意欠如・多動症)などが含まれます。

 今回はそうした神経症状の中から、てんかんを取り上げます。

 

 

2.てんかん発作の種類2)

 大脳の表面には、神経細胞が集中している大脳皮質という部分があり、ちょうど果物の皮のように表面を覆っています。てんかん発作とは、この大脳皮質の神経細胞が異常に興奮して起こる症状です。身体をビクンビクン、ガクガクと震わせる間代(かんたい)発作、身体にギューッと力が入ってつっぱる強直発作などは、わかりやすい発作でしょう。何かが見える、逆に見えなくなる、音が聞こえる、変な臭いや味がする、手足にしびれを感じる、チクチクするというような感覚発作、不安感や恐怖感が生じる情動発作、幻覚や錯覚が生じる認知発作などもあります。何ともたとえようのない違和感だけがあるという人もいます。

 臨床でよく目にする重要な発作は、強直発作、間代発作以外に、強直発作に続き間代発作が起こる強直間代発作、身体がピクッと一瞬動くミオクロニー発作、前兆なく突然身体の力が抜けて倒れる脱力発作、上半身をキュッと縮こませるような動きを反復するてんかん性スパスムなどがあります。意識がなくなる発作は、2つあります。1つは、大脳が左右ともに突然発作に巻き込まれ、反応性が突然途切れ、突然回復する欠神発作です。もう1つは、少し複雑です。脳の一部から始まったことが明らかな発作を焦点起始発作(旧称部分発作)と呼びます。つまり、発作症状に明らかな左右差があるとか、発作中に発作の症状が移り変わる発作、先に挙げた感覚発作などです。焦点起始発作には意識が障害されるものがあり、焦点意識減損発作(旧称複雑部分発作)と呼びます。欠神発作と焦点意識減損発作をきちんと区別するためには、発作時脳波が必要となることもあります。欠神発作では、全般性3Hz棘徐波複合や全般性遅棘徐波複合と呼ばれる脳全体に広がる異常波が出現しますが、焦点意識減損発作では、発作により様々ですが、欠神発作のような脳波にはなりません。

 

3.てんかんと脳波、てんかん症候群3)

 てんかんの診療では脳波は重要な検査です。ただ、脳波さえとれば、てんかんかどうかが診断できるわけではありません。てんかんの診断は間違いなくても、脳波には異常が出ないことも、てんかんではないのに脳波に異常が出ることもあります。

 発作を起こしている時の脳波を発作時脳波と呼びます。ただ、発作は少ないことが多く、発作時脳波は必ずとれるとは限りません。実際の臨床では、問診だけでてんかんかどうかを見極めることがほとんどで、判断が難しい非典型的な場合には、てんかん発作についてよく知っている医師に診断してもらう必要があります。

 ある種のてんかん発作がある場合、それに対応する特徴的な脳波が出現することがあります。特徴的な経過と発作と脳波の三拍子がそろい、病気の特徴がはっきりしているものには名前がついていることが多く、てんかん症候群と呼びます。例えば、①小児期に発症して発達や神経学的な異常がなく、定型欠神発作と、脳波で全般性3Hz棘徐波複合があれば小児欠神てんかん、②乳児期に発症して発達が停滞・退行し、てんかん性スパスムが出現し、脳波でヒプスアリスミアという無秩序であちこちに棘波を認める脳波があればウェスト症候群、③小児期に発症し、睡眠時に強直発作があり、非定型欠神発作・ミオクロニー発作・脱力発作などの多彩な発作と、脳波で睡眠時の速律動を認めればレノックス・ガストー症候群などです。ただ、こうしたてんかん症候群の特徴がきれいにそろわない場合も多く、そのような場合には、特別な名前がつかず、ただ、「てんかん」とだけ診断されることになります。もっとも、てんかん症候群と診断されても、治療がそれだけで決まるとは限りません。あくまでも参考にできる治療が絞られるという程度のことも多いです。特に、先天代謝異常を原因とするてんかんでは、発作や脳波が様々なことが多く、てんかん症候群にあてはまらなくても不思議ではありません。

 時に、てんかん発作のようだがてんかん発作ではない、心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizure: PNES)という状態を起こす患者さんもいます。この場合に、時に発作時脳波をとることが有用なこともありますが、必須とは限りません。

 

4.動画の撮り方と発作の伝え方について

 最近は、スマホなどで発作の動画を撮ってくる方も多く、非常に参考になります。動画を撮るコツをお伝えします。まず、患者さんの安全が第一です。発作中や発作後に嘔吐する患者さんもいて、仰向けのままで吐くと、発作後に意識が戻りつつある時に吐物を吸い込み危険なので、横向きにしてください。発作中は呼吸もしにくいので、服を緩めてください。手足を大きく動かして、周りの物を倒してけがをしないように、周囲のものをどけるか、広い場所に移動します。こうした後で、動画を撮ります。動画は、顔が見える方向から撮り、できるだけ全身が映るようにします。身体全体の姿勢や手足の先端の動きなど、全体が大事です。顔をアップにしたり、撮影者が前後左右に動いたりすると、身体の動きがわかりにくくなります。撮影者は三脚になったつもりで、自分もスマホ・カメラも動かさずに撮ってください。もちろん患者さんが危険な状態になったら、撮影は中止してください。

 発作の種類は少ないことが多いです。しかし、病気によっては違う発作が次々に現れる人もいます。そうした場合は、細かな症状を逐一主治医に伝えても、意味が薄くなることもあり、発作をどのように観察して伝えるか主治医と相談してください。

 

 

5.てんかんの治療について4), 5)

 一般的には、抗てんかん薬で治療を開始します。てんかん発症後、すぐに治療を開始するとは限らず、発作の重症度や回数によって判断されます。近年、たくさんの抗てんかん薬が開発されており、まずどの薬から開始するかという点も相談です。バルプロ酸という薬は、比較的よく使われる抗てんかん薬ですが、ミトコンドリア病の場合には、ミトコンドリア病を非常に悪化させることがあり、注意が必要で、時に禁忌となります。

 一部の先天代謝異常では、特効薬的な薬があります。ピリドキシン依存性てんかん、ピリドキサールリン酸依存性てんかんは、ビタミンB6投与が有効で、それぞれピリドキシン製剤、ピリドキサールリン酸製剤を投与します。先天性GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)欠損症でもピリドキシン製剤が有効です。葉酸欠乏症では、活性型葉酸の投与が、セリン欠乏症ではL-セリンが、クレアチンの代謝に関わるGATM(グリシンアミジノ基転移酵素)欠損症、GAMT(グアニジノ酢酸メチル基転移酵素)欠損症ではクレアチンの投与が有効です。

 食事療法が重要な場合もあります。GLUT1(グルコーストランスポーター1)欠損症では、脳にグルコースを十分取り込めず、エネルギー不足から難治てんかんをきたすため、代わりのエネルギー源を作り出せるケトン食療法が有用です。また、アミノ酸代謝異常や有機酸代謝異常では、それぞれの疾患における食事療法を行います。

 ただ、こうした各疾患に有効とされる治療をしても、十分に発作をコントロールできないこともあります。そうした場合には、抗てんかん薬を調整します。副作用が出ない範囲・許せる範囲で、効果が出るまで薬を増量します。血中濃度が十分に高くなっても無効な場合、経験的にこれ以上薬を増やしても効かないとわかっているほど増量しても無効な場合には、その薬は漸減中止して、次の薬を試すといったことを、根気よく続けます。脱力発作などで転倒する場合には、脳梁離断術や迷走神経刺激術といった手術が有効なこともあります。先天代謝異常では、手術により疾患が悪化することがあるので、手術前後の管理は、代謝の先生のアドバイスを受けながら、慎重に行ってください。

 

6.終わりに

 てんかんは、先天代謝異常の患者さんにとって、それほど珍しい症状ではありません。ただ、専門的な用語も多く難しいので、この文章がてんかんの診療について理解の助けになれば、幸いです。

 

1) Saudubray JM, Garcia-Cazorla A. An overview of inborn errors of metabolism affecting the brain: from neurodevelopment to neurodegenerative disorders. Dialogues Clin Neurosci 2018;20:301-325.

2) Fisher RS, Cross JH, French JA, et al. Operational classification of seizure types by the International League Against Epilepsy: Position Paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia 2017;58:522-530.

3) Scheffer IE, Berkovic S, Capovilla G, et al. ILAE classification of the epilepsies: Position paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia 2017;58:512-521.

4) Papetti L, Parisi P, Leuzzi V, et al. Metabolic epilepsy: an update. Brain & development 2013;35:827-841.

5) Klepper J, Akman C, Armeno M, et al. Glut1 Deficiency Syndrome (Glut1DS): State of the art in 2020 and recommendations of the international Glut1DS study group. Epilepsia open 2020;5:354-365.

 

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JaSMIn通信特別記事No.53(青天目先生)