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JaSMIn通信特別記事No.28

作成日:2019.03.05

ミトコンドリア病新規治療薬の現状

 

埼玉医科大学小児科・ゲノム医療科・難病センター 大竹 明

 

はじめに
 ミトコンドリアはほとんど全ての細胞に存在する細胞内小器官で、その最大の役割はエネルギー(ATP)を作ることです。ミトコンドリアの働きが低下することが原因で起こる病気を総称してミトコンドリア病と呼びますが、その頻度は約7,000人に1人と言われる最も頻度の高い先天代謝異常症です。病気の中心がどこにあるかにより「ミトコンドリア脳筋症」(リーやMELASはその亜型)・「ミトコンドリア肝症」・「ミトコンドリア心筋症」などに分けられますが、各臓器、あるいは全身におけるエネルギー(ATP)産生不全が病気の主症状になります。私たちは、現在リー脳症を中心とする「脳神経症状を中心とするミトコンドリア病」を対象とする5-ミノレブリン酸(以下5-ALA)/クエン酸第1鉄を用いた医師主導治験を行っておりますが、今回はこの5-ALA治験を中心に、ミトコンドリア病新規治療薬の現状をご紹介します。

ミトコンドリア病新規治験薬の現状
 昨年タウリンのレーベル遺伝性視神経症(指定難病302)に対する使用がドイツで認可され、さらについ先頃タウリンのMELAS患者さん(指定難病21の1病型)への使用が日本国内で認められたことは、大きな福音となるニュースです。しかしまだ大部分のミトコンドリア病に対しては根本療法のないのが現状で、図1に示すような多数の新規治験が国内でも走っております。

 この中で最も期待されていた薬剤の一つがピルビン酸ナトリウムでしたが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との交渉の結果昨年10月に中止となったことは、誠に残念です。タウリンが正式に認可されたことは上述しましたが、このほかにL-アルギニン、EPI-743、さらにドイツで承認されたイデベノンなどが治験を(ほぼ)終了しておりますが、今のところ正式な認可の目処は不明です。これら以外にMitochonic acid 5(MA-5)(東北大学阿部先生)やアポモルヒン(自治医科大学宮内・小坂先生)などが現在期待される新薬ですが、なお基礎実験の段階です。

 

5-アミノレブリン酸とは?
 現在行われている治験薬はその大部分が活性酸素の減少に焦点を合わせたものであり、ATPの合成を増加させるような根治療法薬ではありません。それに対し5-アミノレブリン酸(5-ALA)は呼吸鎖の構成蛋白であるヘムの前駆物質であり、鉄と結合することでヘムになります。さらに5-ALAのもう一つ好都合な点は、人体内に正常に存在する物質であるために、目的とする臓器・組織にひとりでに入ってくれると言う点です。つまり外部から投与された5-ALAは内部で生合成された5-ALAと同じ代謝経路を辿り、最終的にヘムが合成され呼吸鎖(電子伝達系)複合体の構成要素となることが示されています(図2)。5-ALA+鉄投与によりヘム量を増加させ呼吸鎖IV活性・酵素量を上昇させること、低下したミトコンドリア機能を改善できること、ATP産生を増加させることが各種実験動物において示されています1)-4)。さらに、ヘムの分解産物はアンチオキシダントであるビリルビンであり、これが活性酸素を有意に低下させることに繋がります。私たちはミトコンドリア病患者由来線維芽細胞でも5-ALA+鉄投与により用量依存性に呼吸鎖II・III・IVの活性と量を改善してATP産生を有意に増加させることを確認しています5)

 

脳神経症状を中心とするミトコンドリア病を対象とするSPP-004投与試験
 SPP-004(5-ALA+クエン酸第一鉄)治験は第I相、第II相試験が無事終了し、昨年6月より第III相試験が進行中です。治験である性質上詳しくは申し上げられませんが、現在8病院で54名の患者さんを対象に第III相試験が進行中で、今のところ大きな副作用もなく全ての患者さんが脱落されずに経過しており、予定通りに行けばあと1年余りで終了の予定です(図3)。

 

おわりに
 以上5-ALAは、これまで対症療法しかなかったミトコンドリア病に初めて根本治療が行えるようになるものと期待できる薬剤です。この他にも多数の治験が走っていることは申し上げましたが、これら治験に最も必要なことは、患者さん1人1人のご協力です。患者会への参加は勿論、登録(レジストリー)制度への1人でも多くの方のご協力をお願いし、稿の結びと致します。

 

文献

1) S. Ogura, K. Maruyama, Y. Hagiya, Y. Sugiyama, Y. Tsuchiya, K. Takahashi, F. Abe, K. Tabata, I. Okura, M. Nakajima, T. Tanaka, ‘The effect of 5-aminolevulinic acid on cytochrome c oxidase activity in mouse liver.’, BMC RES Notes, 4, 66 (2011).
2) H. Atamna, J. Liu, B.N. Ames, ‘Heme deficiency selectively interrupts assembly of mitochondrial complex IV in human fibroblasts: revelance to aging.’, J Biol Chem, 276, 48410-48416 (2001).
3) H. Atamna, D.W. Killilea, A.N. Killilea, B.N. Ames, ‘Heme deficiency may be a factor in the mitochondrial and neuronal decay of aging.’, Proc Natl Acad Sci U S A, 99, 14807-14812 (2002).
4) S. Navarro, P. Del Hoyo, Y. Campos, M. Abitbol, M.J. Morán-Jiménez, M. García-Bravo, P. Ochoa, M. Grau, X. Montagutelli, J. Frank, R. Garesse, J. Arenas, R.E. de Salamanca, A. Fontanellas, ‘Increased mitochondrial respiratory chain enzyme activities correlate with minor extent of liver damage in mice suffering from erythropoietic protoporphyria.’ Exp Dermatol, 14, 26-33 (2005).
5) M. Shimura et al., ‘Effects of 5-aminolevulinic acid and sodium ferrous citrate on fibroblasts from individuals with mitochondrial diseases.’ Submitted

 

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JaSMIn通信特別記事No.28(大竹先生)