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JaSMIn通信特別記事No.80

作成日:2023.11.27

「ミトコンドリア病の出生前診断と着床前診断」

 

埼玉医科大学 ゲノム医療科・小児科

大竹 明

 

1. 緒言

 ミトコンドリアは核DNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の2種類のDNAにコードされた遺伝子の共同作業で働きます。つまり、核DNA、mtDNAの両者ともにミトコンドリア病の原因となります。新生児期乳児期発症のミトコンドリア病は重篤な経過をたどることが多く、生命予後が悪いことがわかっています。そのような家族が次子を考える場合、出生前診断や着床前診断はひとつの選択肢になってきます。

 

2. 出生前診断と着床前診断(表1)

 出生前診断(PND)は妊娠後に施行する検査で、妊娠11~13週に施行する絨毛検査と、15~16週以降に施行する羊水検査があります。着床前診断には3種類ありますが、ミトコンドリア病など重篤な単一遺伝子疾患で、重症な疾患をもつ児を出産する危険がある場合に行なうものを「単一遺伝子病を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)」と呼びます。

 

3. ミトコンドリア病に対するPNDとPGT-Mの実際1)(図1)

 埼玉医科大学病院での、2014年から2023年10月までの実施例一覧を示します。発端者の遺伝子バリアントが同定されていて、希望のあった40家系に遺伝カウンセリングを行い、26家系、37例でPGT-Mも含めた出生前の検査を行いました。そのうち核DNA由来が33例、mtDNA由来が4例です。出生前診断は34例(核DNA: 31例、mtDNA: 3例)に行い、絨毛検査のみが22例、羊水検査が10例、両者を行ったのが2例で、11例で病的バリアントは検出されず、9例がヘテロ保因者でこの両者は全て健康なお子さんとして生まれております。14例で発端者と同様の病的バリアントを認めており、13例が妊娠を中断しています。

一部重複しますが、mtDNAによるPNDを取り出して説明します。3例に行ないましたが、mtDNAが病因の場合は、PNDを行なう前提として突然変異が強く予想される場合としており、具体的には、母の血液と尿沈渣で共に病的バリアントを認めない場合に行なっております2)

現在までのところPGT-Mは3例(核DNA: 2例、mtDNA: 1例)になりますが、うち1例(発端者はm.8993T>G遺伝子バリアントによるリー脳症)でつい先頃着床が確認されました。

 

図1.ミトコンドリア病に対するPNDとPGT-Mの実際(埼玉医科大学病院)

 

4. 考察

 出生前診断や着床前診断は繰り返して行なう遺伝カウンセリングが最も重要で、当科でも1例1例丁寧な議論を行い家族へ説明しております。発端者の経過や、その後繰り返し出生前診断を行い、繰り返し妊娠中断の決断をして実際にそれを行われたあとの家族、特に母親の身体的精神的な負担や苦労をお聞きすると、着床前診断は確かにご家族の最後の希望になると思っております。今後も疾患単位で考えるのではなく一家系一症例ごとに検討し、丁寧なカウンセリングの下、着床前診断を含めた出生前の検査を行っていければと思います。と同時に、より安全で確実な着床前遺伝学的検査方法の開発も続けます。

 

 

文献

  • Akiyama N, et al. Sci Rep (2021) 11:3531
  • Sallevelt SCEH, et al. J Med Genet (2017) 54:114–124.

 

全文PDFは以下よりダウンロードできます。

JaSMIn通信特別記事No.80(大竹先生)